ホロコーストを生き抜いた老人が、親友に会うために70年ぶりにポーランドを訪れるロードムービー『家へ帰ろう』
評価が高い映画で、前から気になっていました。
私自身ドイツがなぜか好きで、特に第2次世界大戦を描いた映画をよく見ます。あとhoiという戦争ゲームでは毎回ドイツを選択しています。
今回はフィクションのドイツが好きな私と、戦争体験者である祖母の話を交えつつ『家へ帰ろう』のあらすじ、感想を紹介していきます。
『家へ帰ろう』の作品情報
タイトル | 家へ帰ろう |
原題 | El último traje(最後のスーツ) |
上映時間 | 93分 |
公開年(日本) | 2018年 |
製作国 | 日本 |
オススメ度 | [jinstar4.0 color=”#ffc32c” size=”16px”] |
家へ帰ろうのキャスト
監督・脚本 | パブロ・ソラルス |
---|---|
キャスト | ミゲル・アンヘル・ソラ |
アンヘラ・モリーナ | |
オルガ・ボラズ | |
ユリア・ベアホルト | |
マルティン・ピロヤンスキー |
家へ帰ろうのあらすじ
アルゼンチン・ブエノスアイレスに住む仕立て屋のアブラハムは足を悪くし、娘達に老人ホームに入れられることになる。
しかし、アブラハムは家を抜け出し、70年以上会っていないポーランドの親友に仕立てたスーツを渡す旅に出る。
ユダヤ人であるアブラハムはホロコーストの際に親友に命を助けられていた。
途中、飛行機で青年、マドリードではホテルの女主人、列車ではドイツ人の人類学者と出会い、助けられる。
家へ帰ろうのラスト
ラスト、アブラハムは親友が住んでいた家にたどり着く。
だが親友もけっこうな年齢だ。生きているか分からないし、引っ越したかもしれない。
「会うことも会えないことも怖い」
だが勇気を出したアブラハムの視線の先には、ミシンを扱う親友の姿があった…
アブラハムに優しくしてくれる人が沢山登場しますが、あれも奇跡の一つだと思うと自然なこととして受け入れる事ができました。
家へ帰ろうの感想!ほとんど祖母のお話
ナチスや第二次世界大戦がテーマの映画は『帰ってきたヒトラー』『ヒトラー最後の12日間』『ワルキューレ』などいろいろ見てきましたが、ホロコーストで生き残った人が主人公の物語は久しぶりです。
『手紙は憶えている』以来でしょうか。こちらも老人が旅にでるロードムービーですが、サスペンスなので本作とは毛色が違います。
『家へ帰ろう』は家族を目の前で殺された人間が、88歳になり、死ぬ間際に色んな思いを抱えてポーランドにいる親友に会うお話。あらすじだけ読むと感動ポルノみたいですが、決してそうではないんですよね。
アブラハムの心の機微、ドイツへのトラウマ、親友に会う(あるいは会えない)ことへの恐怖が丁寧に描かれています。
またホロコーストの歴史を持つドイツ人も登場し、映画に優しさをもたらしています。
本作は今を生きる戦争体験者や、歴史を学び過去に向き合っている人たちへのリスペクトがなければ完成しなかったでしょう。
(本作と同じように製作者たちのリスペクトを感じる消防隊の実話をえがいた映画『オンリーザブレイブ』もめっちゃおすすめです。泣けます)
そんなリスペクトがありつつも、しっかり現実を描いている『家へ帰ろう』
腕に数字のタトゥーを持つアブラハムは、「ドイツ」「ポーランド」の国名も言えません。ドイツ語を聞くだけでトラウマを思い出し、パニックになるほどです。
このシーンの演技がすごくリアルで、心臓の音が大きく響いて、胸がぎゅっとなっちゃいました…。
あの辛くて悲しくて、どうしようもないアブラハムの顔を、私は現実で1度見た事があります。沖縄戦を体験した祖母を泣かせてしまった時です。
ここで少し私の話をします。
私は沖縄生まれで、県民ならよく分かると思いますが、沖縄の学校では戦争を学ぶ機会が多々あります。学校によっては戦争体験者を招いて、当時の話をしてもらいます。
祖母の家で育った私は小学生の頃、課外学習のノリでに祖母に戦争当時のことを聞いてしまったんです。
その時初めて大好きな祖母を泣かせてしまいました。話してくれた内容は憶えていませんが、おじさんが死んだとか、そういうことを言っていたかと思います。
あの時、ああいう涙を流させてしまったことが、15年以上前のことですが今でも忘れられません。
私が聞かなければ、思い出すこともなく、涙することもなかったでしょう。
その後、祖母になにか変化があったかというと、ありませんでした。
いつもの優しいおばちゃんでした。
でも、私はあの涙と思いを知ってしまったので、もう祖母のことをただの楽しくて優しくて、夜更かしを許さなくて、ご飯をめっちゃ食べさせようとする、子供にとってはちょっとウザイでも大好きなおばあちゃんには見えなくなっていました。
抱えたものを見せていないだけで、本当は色んな重いものを隠しているんだと、思えるようになったんです。
たぶんあの時のことがなければ、私はこんな風に祖母を思うことはなかったし、本作に涙することはなかったと思います。
そう思えば、少し複雑な気持ちになります…。
そして、本作では「語らない」シーンがとても多いです。でもアブラハムが何を言いたいのか、何を想っているのかは痛い程伝わってきます。
学校で開催しているイベントのように、戦争を語ることもいいことでしょうが、私の祖母のように、アブラハムのように、語りたくない、語らないというのも戦争がなんであるかを表現していると思います。
無言であるのに、こんなにも歴史、思い、迷い、恐怖を語っている映画を他に知りません。
沈黙がとても胸に響く映画でした。
そしてアブラハムが最後に見せた涙と笑顔。あの顔も祖母と重なりました。
私が祖母を泣かせたとき、祖母は最後にティッシュで涙を拭って、笑って戦争の話を終わらせたんです。
その時の申し訳なさそうな笑顔と、今見せてくれる祖母の笑顔、アブラハムの笑顔、それらが重なって胸がぎゅううっとなりました。
まとめ
映画の感想のはずが、個人的な話ばかりになってしまいました。
おばあちゃん子なので、おばあちゃんの話をすると懺悔や感謝がとまらなくなるんですよね…。
本作を退屈に感じる人が多くいることは容易に想像できます。
でも、響く人には心の奥の奥に響く作品です。
最初は笑えて、とちゅうで泣けて、最期は泣きながら笑顔になれる映画『家へ帰ろう』ぜひ見て下さい。